SU薬はときどき役に立つ
欧米人の糖尿病の臨床試験を見ますと、平均60歳ぐらいで、BMI32程度の高度肥満の方が多いことに気が付きます。一方、糖尿病データマネジメント研究会の2020年のデータでは、2型糖尿病患者さんの平均BMIは24.88と、患者さんの半分は肥満ではないということになります。日本人で糖尿病を発症する人の多くは、体質的にインスリン分泌が弱く、生活習慣に問題がそれほどなくても糖尿病を発症してしまう遺伝素因の影響が大きいと、私は考えております。
現在糖尿病の内服薬は7種類ありますが、もっとも歴史が古い薬がSU薬(アマリール)です。以前は高容量(3-6mg/日)のアマリール投与による低血糖が問題となり、新しい薬が次々と出たことから使用頻度が減っていますが、日本人の糖尿病の特性を考えますと、SUを完全に捨てるのはもったいない、患者さんを選んで使ってゆく薬だと考えております。
すい臓のベータ細胞から、インスリン分泌が起こる過程の中で、真ん中に位置するのがK-ATPチャネルで、このチャネルが開いて細胞内のカリウムが流出すると膜電位が上がり脱分極が起こります。SUは、このチャネルにくっついて、膜電位を上げて、脱分極からのインスリン分泌の経路が動きやすくなります。アマリール0.5mgから1mgの少量のアマリールを加えることで、膜電位を少し上げて、食事による刺激でインスリンが出やすくなる状態を作ります。インスリンの基礎分泌も上昇します。しばしばHbA1cで1%の改善が得られる方々を経験しております。
アマリールによる低血糖を防ぐ工夫としましては、クリニックでは、アマリールを始めた患者さんには空腹状態で来院していただき、血糖値を測定しております。これが110mg/dLを超えていれば、まず問題ありません。これまでのケースでは,アマリール少量で低血糖があった患者さんはほとんどおりませんでしたが、念のため開始して次の外来はチェックさせていただいております。
当院では、効率を求める医療だけではなく、患者さんの問題点は個々に異なるものであるという考え方に立ち、個々の患者さんの病態にあった適切な治療はなにか、ということを常に考え、最適な医療を選択できるように、患者様の考えも聞きながら取り組んでおります。皆様との出会いを、楽しみにしております。