四君子湯と六君子湯──やせて、冷えて、食が細いあなたへ
人参と利水薬で、胃腸から立て直す
最近、「ちゃんと食べてるのに太れない」「疲れやすい」「なんだかいつも冷えてる」という方が増えています。とくに、若い女性に多く見られます。見るからにやせていて、顔色がさえず、胃腸もあまり丈夫ではなさそうな方。
そういったタイプの方に、私はよく「六君子湯(りっくんしとう)」を使います。
でもその前に、実はもっと古くてシンプルな処方があって、そちらを選ぶこともあります。
それが「四君子湯(しくんしとう)」です。
四君子湯──宋代に生まれたシンプルな基本形
四君子湯は1000年ほど前の中国・宋の時代に作られた処方です。
使われているのは、次の4つの薬草。
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人参(にんじん)
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白朮(びゃくじゅつ)
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茯苓(ぶくりょう)
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甘草(かんぞう)
とてもシンプルな構成ですが、これが実にバランスが良いんです。
中心になるのは人参──元気をつくる力
この中で中心になるのは人参です。
人参というと、「滋養強壮の薬」というイメージがあるかもしれません。でも、ただ栄養を入れるだけじゃないんです。体がちゃんとエネルギーを作れるようにしてくれる──それが人参のすごいところ。
「最近、食べても疲れが抜けない」「なんとなく元気が出ない」
そんなとき、体の芯から立て直してくれる薬草です。
水をさばいてくれる2つの仲間
でも、人参だけではうまく働いてくれません。
そこで登場するのが白朮と茯苓。この2つは「体の中にたまった水」をさばいてくれる役割があります。
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白朮は、胃腸を温めながら、消化を助け、水分代謝も良くしてくれる。
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茯苓は、余計な水を整えつつ、気持ちを落ち着かせてくれる。
とくに、お腹を押したときに「ぽちゃぽちゃ」と水の音がするような方。これは、水が滞っているサインです。こういう方に、四君子湯はしっかり効いてくれます。
六君子湯は「もうひと押し」したいときに
この四君子湯に、半夏(はんげ)と陳皮(ちんぴ)を加えたのが「六君子湯」です。
この追加で、「気を補う」だけでなく、「胃を動かす力」も足されます。
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食べるとすぐお腹が張る
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胃がもたれる
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ゴロゴロ音がする
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げっぷが多い、しゃっくりが出やすい
そんな“胃の働きが弱ってる”タイプの方にぴったりです。
腹診でぽちゃぽちゃしていたら六君子湯
私は診察のとき、患者さんのお腹を触ります。場合によっては、超音波(エコー)で内部も確認します。
もし「ぽちゃぽちゃ」と水の音が聞こえたら、まず六君子湯を検討します。
「食べられない」という症状、実は「気」が足りないだけではなく、水がたまってるせいかもしれません。
胃が水でちゃぷちゃぷしていたら、人参の力だけでは前に進めません。その水をさばいて、胃腸の動きを取り戻すのが六君子湯の役割なんです。
じゃあ、四君子湯はいつ使う?
私の中では、「やせの程度」で使い分けることが多いです。
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やせていて、もう本当にエネルギーが足りていない。そういう人には、まず四君子湯。
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そこまでではないけれど、胃腸が弱く、少し冷えていて、食欲もいまひとつ。そういう方には、六君子湯。
この2つをうまく使い分けることで、その人の今の状態にぴったり合った処方ができます。
おわりに
四君子湯と六君子湯。どちらも、とてもベーシックで使いやすい処方です。結構飲みやすい薬でもあります。
現代の「やせ・冷え・胃腸虚弱」という体質に、そっと寄り添ってくれる薬です。
やせの体質みたいなものは原因としては有るんですけど、漢方はある程度体質を真ん中に戻してくれるんですよ。
ただ栄養を入れるだけじゃなくて、
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水をさばく
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胃腸を整える
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そして人参の力を引き出す
そんなバランスの中に、古人の知恵がぎゅっと詰まっているのだと思います。