DPP4阻害薬
食べたものが小腸に到達すると・・・
「GLP-1」「GIP」というホルモンがあります。この二つは、もともと私たちの身体のなかで、小腸から分泌されるホルモンです。食べ物が小腸に到達したときに分泌され、「血糖値が上がるからインスリンを分泌して」と働きかける役割を担っています。
生理的には、この2つのホルモンは、小腸から分泌されて、5分程度で、体内にあるDPP4という分解酵素で分解され、活性を失ってしまいます。DPP4をブロックすることができれば、GLP-1とGIPの寿命を延ばして、食事によるインスリン分泌を助けることができるのではないか、この発想により誕生したのが、DPP4阻害薬になります。
DPP4阻害薬と糖尿病治療
このお薬が発売されたのは2010年ごろですが、それまで、糖尿病の内服薬はSU薬、アマリールやダオニールが主流で、これらのお薬は血糖値を下げてくれますが、空腹時でもインスリンを分泌させ続ける性質があり、低血糖を起こすリスクがありました。DPP4阻害薬は、単独投与では、低血糖をおこすリスクが極めて低いことから、あっという間に糖尿病内服薬の第一選択薬となり、糖尿病にはまずDPP4阻害薬という選択が一般内科の先生方にも浸透しました。
当時はアマリールなどのSU薬が糖尿病のキードラッグ(カギを握る薬)でした。アマリールは1mgから初めてもだんだん効果が薄れ、増量が必要であり、アマリール3mgから6mgの高用量で使っていくのが当たり前でした。そこにDPP4阻害薬を併用で追加すると高用量のアマリールの作用が増強されてしまい、低血糖を起こす事例が相次いで起きました。そのため、SUとDPP4阻害薬を併用する場合、アマリールは多くても2mg/日以下に減らすようにという通知が日本糖尿病学会から出ました。その後、SUによる低血糖を起こし病院を受診する患者さんは激減しました。そういう意味でもDPP4阻害薬は糖尿病治療を大きく変えた薬剤であったといえます。
また、どうやらこのお薬はやせた日本人の糖尿病の方によく効く薬であり、欧米の肥満した糖尿病の方にはあまり効きません。アメリカ糖尿病学会のガイドラインにもDPP4阻害薬はあまり上位に記載されておりません。日本人と欧米人では効く薬が結構違うことは覚えておいた方が良いと思います。
大きな副作用が少ないのも、メリットです。特に腎機能が低下した高齢者の患者さんに使っても、これといった副作用が起きにくいこと、食事がとれないようなシックデイの状態でも、あまり有害事象の報告がありません。副作用が少ない非常に使いやすいお薬であると思います。
DPP4阻害薬の効果が不十分であれば、この項目にもあるGLP-1受容体作動薬や、今後発売されるGIP・GLP-1受容体作動薬への変更を考えるのが妥当です。