マンジャロ(チルゼパチド)は脳に直接働いているのか?
マンジャロ(チルゼパチド)は、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用するdual agonist 二重の作動薬として、2023年4月に登場しました。当院では特に肥満を合併する糖尿病がある患者さんに使っていて、患者さんは減量を意識しなくても、体重がどんどん減ってくるとおっしゃる方が多いです。
患者さんがよく言うフレーズ
- 「気づいたら食べる量が減っていた」
- 「お腹が空かない」
- 「食べようと思えば食べられるけど、食べなくてもいい感じ」
- 「以前ほど食事に執着しなくなった」
マンジャロは、おそらく脳に直接働いて、食欲を抑制していると考えられています。そのためには、マンジャロは脳に直接薬として届く必要があり、そもそも血液脳関門を通過できるのか?という疑問がわいてきます。
血液脳関門(BBB)とは?
血液脳関門(BBB)は、脳の神経細胞を保護するバリアであり、分子の大きさや親油性などによって通過の可否が決まります。一般的に、
- 分子量が400~500 Da以下の物質は自由に通過しやすい
- 700~1,000 Da以上の物質は通過が難しい
- **ペプチドやタンパク質(1,000 Da超)**は基本的にBBBを通過できない
とされています。たとえば、アルコールは分子量が46と小さいので、かなり自由に血液脳関門を通過して、鎮静作用などの脳機能に影響する直接作用があり、これを酩酊と呼んでいます。
マンジャロの分子量とBBB通過性
マンジャロ(チルゼパチド)の分子量は約4,813 Daとされており、通常の基準から考えるとBBBを自由に通過することは難しいと考えられます。比較対象として、
- セマグルチド(オゼンピック): 約4,100 Da
- デュラグルチド(トルリシティ): 約63,000 Da
とされており、どれも分子量的にはBBBを直接通過するには大きすぎるサイズです。
ただし、トルリシティは体重はあまり減らさないのですが、オゼンピックやマンジャロは体重をかなり減らすので、分子量の小ささが食欲の低下に影響している可能性はあります。
それでもマンジャロが脳に作用する可能性
マンジャロやGLP-1受容体作動薬の効果が脳内の食欲抑制に関与していると考えられる理由として、以下の点が挙げられます。
- 受容体媒介性トランスサイトーシス(RMT)
- BBBには、特定のペプチドホルモンを輸送する機構が存在します。例えば、インスリンや一部のサイトカインは、専用の輸送体を介してBBBを通過することが知られています。マンジャロも同様の機構を介して、少量が脳内に移行している可能性があります。
- 脳幹や視床下部の周辺ではBBBが緩いと考えられる
- 食欲調節を担う視床下部や脳幹の一部には、BBBの構造が比較的緩やかな領域(例: 脳室周囲器官)があり、これらの部位には血中のペプチドホルモンが作用しやすいとされています。
結論:マンジャロはBBBを直接通過するのか?
現時点では、マンジャロ(チルゼパチド)がBBBを自由に通過する可能性は低いと考えられます。しかし、受容体を媒介したり、視床下部のようにBBBが比較的緩い場所で働いている可能性はありえます。さらなる研究が進めば、マンジャロの中枢作用についてより明確な答えが得られるかもしれませんね。