糖尿病網膜症
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症の一つと言われます。
・「なぜ、糖尿病で目に影響が出るの?」
・「内科に行くだけでも大変なのに、どうしてわざわざ眼科で検査を受けないといけないの?」
と不思議に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
糖尿病患者さんが、定期的に眼科診察をしなくてはいけない理由を、ご説明します。
網膜とは
黒い瞳から眼底を除きますと、オレンジ色の、血管のある網膜が映し出されます。この網膜で、われわれ人間は、光や色を感知しています。
コントロール不良の高血糖が数年続きますと、網膜にある、小さな血管たちが痛んでいきます。どの程度の高血糖が続くかにもよりますが、段階的に網膜症は進行することがあり、10年コントロール不良の状態が続くと、網膜症が進んでいる可能性が高くなります。
網膜症と血糖コントロールとの関係
糖尿病をもつひとについて、血糖値やHbA1cがそのときの瞬間風速だとしたら、網膜症が存在するのか、どの程度進展しているのかは、その方の糖尿病のコントロールの歴史を表すものです。たとえ、現在のHbA1cが良好であったとしても、網膜症が進展しているとしたら、過去に血糖値が高い期間が年単位で存在していたことを表します。また、たとえHbA1c 15%で緊急入院になったとしても、糖尿病の発症が最近であれば、眼科受診しても網膜症は「なし」の判定となります。したがって、糖尿病と言われたら眼科にかかる、眼科はすくなくとも1年に1回はかかるというのが鉄則になります。
眼科にいってもらって、網膜症がなしと判定されれば、「網膜症がないということは、全身の合併症はあまり進んでいないということなので、ある程度安心してよい」と説明しています。網膜症がある、と判定された場合、網膜症には3段階ありますので、その3段階について説明しております。
ステージ1
単純網膜症です。血糖値が高い状態が数年続くと、網膜の血管がもろくなり、タンパク質や血液などの物質が外に漏れやすくなります。眼底をみると点状出血や白斑が認められます。ステージ1であれば、血糖コントロールが良好が続くとかなり元に戻る余地があるといわれております。
ステージ2
前増殖網膜症です。ステージ1の状態から、さらに血糖値が高い時期が続きますと、血管が少しずつ閉塞して、血流が流れない部分が見られるようになります。そうして、網膜に酸素が不足してきます。特徴的な所見は軟性白斑で、ぼやっとした白い大きな斑点が多数認められるようになります。
ここまでくると通常は元に戻ることはありませんが、多くの場合は網膜光凝固、いわゆるレーザー治療で、進行を止めることが可能です。逆にいえばレーザー治療をやっているということはステージ2以上の時期があったと考えてよいです。レーザー治療は、黄斑から遠い、大事でない部分を焼いて凝固させ、血液や酸素を中心の黄斑部分にあつめることで、虚血の進行を食い止めることが可能です。また、この時期になると、黄斑浮腫と言って、大事な黄斑部分のむくみが見られることがしばしばあり、急激に視力が低下することが起こりえます。黄斑浮腫に対してはアバスチンのようなVEGF抗体が有効なことがあります。
ステージ3
増殖網膜症です。網膜の酸素不足が長く続くと、網膜から新生血管が出現します。この新生血管が破れて出血したり、粘着力の強い増殖膜というたちの悪い膜を作って、牽引性網膜剥離を起こしたり、緑内障を起こしたりして悪さをします。硝子体出血を起こして、真っ赤になって見えなくなると、硝子体を取り除いてゼラチンに置き換えるような手術を行うと、視力が回復する場合があります。
必要以上に網膜症を恐れない
このように、網膜症は進展すれば、失明に至ることもある病気ですが、通常、クリニックに通院されていて、定期的に内科・眼科の受診をされているかたであれば、失明に至るような増殖網膜症に至るケースはまずありません。内科の治療中断はもっとも網膜症を進展させる要素になりますので、何かあって受診をやめている方はぜひご相談していただきたいと思います。