SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬とは
SGLT2阻害薬は、リンゴの樹皮に含まれるフロリジンを改良して合成されたものです。フロリジンは19世紀には腎臓に働いて尿糖を排出する作用があることが分かっていました。フロリジン骨格を維持したまま、毒性を減らし内服可能にし、現在のSGLT2阻害薬となりました。SGLT2阻害薬が発売されたのは、2014年のことです。
SGLT2阻害薬は、腎臓の「近位尿細管」という部分に内側からはたらき、グルコース(ブドウ糖)の再吸収をブロックするという薬です。
1日当たり75g、約300kcal(大盛ご飯1膳分!)の尿糖を毎日排泄させることで、血糖値を下げ、体重を低下させる作用のある薬です。
どういう患者さんに使うのか
体重を低下させる薬なので、比較的若く(75歳以下が望ましい)、肥満傾向で(できればBMI>25以上)、お元気な方に使用したい薬です。逆に、高齢で、やせ型(BMI<22)のひとには、筋肉量を低下させる可能性がありますので、慎重に使う必要があります。1型糖尿病の方にも適応のある薬剤がありますが、ケトン体上昇などの有害事象がかなりの頻度で起きますので、肥満傾向がある1型糖尿病以外には、使用しない方がよいと思っています。また、ケトン体上昇、ケトアシドーシスのリスクがあるのでコロナ感染症などに感染し体調が悪い時、特に食事がとれないときは中止する必要があります。
内服の注意点
このお薬を内服すると尿量が増えますので、脱水傾向になります。毎食のお茶を1杯増やしましょう。水分摂取の極端に少ない高齢者はこのお薬は避けたほうが良いでしょう。また、高齢者で筋肉量が減少している場合、さらに減少する可能性があり、慎重に使う必要があります。
体重を減らしたい場合、食欲が出る場合がありますので、すこし食欲を我慢すると体重が減りやすくなります。
過度の糖質制限を行っている患者さんには、このお薬の開始時にケトアシドーシスを起こすリスクがあります。ある程度の糖質の摂取(1食当たり少なくともごはん100g程度)が必要になります。
いずれにしてもお薬をのんで、体調が悪くなったら、患者判断で中止し、速やかに主治医に報告してほしいと思います。
SGLT2阻害薬のエビデンス
2015年に発表された臨床試験の結果によると、エンパグリフロジン(ジャディアンス)が、糖尿病をもつひとに起きる心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞)の発症率を低下させました。それまで、心血管イベントを抑制するというエビデンスのある薬が、高コレステロール血症治療薬のスタチンのみでした。尿糖を排泄する作用のある糖尿病薬が、心血管イベントの発症率を低下させるという確固たるエビデンスを出してきたことは医学界に衝撃をもって受け止められました。さらにその後、心不全や、蛋白尿や腎機能低下に対して有利に働くのではないかという臨床結果も発表されました。ただし、これらのエビデンスは、主として欧米の肥満の強い糖尿病患者、しかも平均年齢60代の患者群での臨床試験ですので、特に体重が軽い日本人の高齢者でも同様の結果が得られるかについてはあきらかではありません。患者ごとに適応を慎重に見極め、このお薬を選択するようにしています。