冷え性と漢方
冷え性と漢方治療
現在の通常治療(西洋医学)では冷えを問題視することは少なく、冷え性に特化した薬も存在しません。しかし、漢方では冷えを一つの重要な医学的症候と捉え、2000年以上にわたりその治療法を研究してきました。診察室では、冷え性を訴える患者さんの手を触れてみることがありますが、氷のように冷たい手をしている方もいます。冷えは男性にも女性にも見られ、主観的に冷えで困っている場合、それは治療の対象として考えております。
冷え性の原因は、大きく以下の3つに分類できます。
- 末しょう循環の低下
- 冷えのぼせ
- 新陳代謝の低下
それぞれについて、漢方の視点から説明したいと思います。
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末しょう循環の低下
末しょう循環が低下している場合には、手足が冷たく、特に冬にしもやけができるような症状が特徴です。このような場合には、**当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)**が有効です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯の構成
- 桂枝湯をベースに、以下を加えたもの:
- 当帰:血を巡らせる。
- 呉茱萸:温めて痛みを取る。
- 木通:利尿作用を持ち、むくみを改善する。
- 細辛:温める薬能。
桂枝湯の主役である桂皮と芍薬が自律神経を整えます。全体的に血流を改善し、末しょうまで温めます。これにより、冷えによる痛みや不快感を緩和します。
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冷えのぼせ
冷えのぼせは、手足や下半身が冷えている一方で、頭や顔がのぼせるように熱くなる症状です。このタイプの冷えには、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が適しています。
桂枝茯苓丸の特徴
- 桂皮:血行を促進し、温める。
- 茯苓:利尿効果で体内の水分代謝を整える。
- 芍薬:鎮静作用があり、筋肉の緊張を緩める。
- 桃仁:血の巡りを改善する。
- 牡丹皮:血熱を冷まし、炎症を抑える。
冷えのぼせは、血流が滞りやすい状態と関連しており、桂枝茯苓丸は血液循環を整えることで冷えと熱感のアンバランスを解消します。
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新陳代謝の低下
特に高齢者や虚弱体質の方で、新陳代謝が低下している場合は、全身が冷える傾向があります。この場合、**真武湯(しんぶとう)**が適しています。
真武湯の構成
- 附子:強力な温め作用を持ち、全身の代謝を高める。
- 茯苓・白朮:利尿効果があり、むくみやめまいを改善。
- 生姜:消化機能を助け、冷えを緩和する。
また、若い女性でやせ型、月経不順やむくみを伴う場合には、**当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)**が良いでしょう。これは血流を促進しつつ、ホルモンバランスを整えます。
冷え性の診察方法
当院では漢方診察として舌診と腹診を行っています。
- 舌診:舌に歯の跡がついている場合、水毒(水分代謝の乱れ)があると考えます。
- 腹診:臍の斜め下が膨れていて軽く押しただけでも痛みがある場合、末しょう循環不全を示唆します。
こうした診察結果をもとに、個々の症状に最適な漢方薬を処方しています。