バセドウ病のブロック補充療法
なぜ相反する治療薬を同時に入れるのか
バセドウ病に対しては、メルカゾールなどの抗甲状腺薬を使います。また、甲状腺機能低下症については、チラーヂンS(甲状腺ホルモン薬)を用います。しかし、バセドウ病でも甲状腺が大きかったり、ホルモンの変化が不安定なケースでは、ブロック補充療法といって、メルカゾールとチラーヂンSを併用することがあります。どうしてこのような相反するような治療を同時に行うのでしょうか。
バセドウ病でメルカゾールで治療開始後早期に、甲状腺機能が下がってしまうケースがあります。ここでメルカゾールを急激に減量したり、中止したりすると、バセドウ病は数か月では寛解しないことがほとんどですので、バセドウ病が再燃するリスクが高いです。この場合、メルカゾールを急に減らさず、チラーヂンSを上乗せすると、安定することがしばしばあります。
甲状腺ホルモンはT4とT3がある
甲状腺ホルモンには、ヨードを4つ含んだT4と、ヨードを3つ含んだT3とがあります。わかりやすく言えば、T3はT4の量の100分の1しかありませんが、活性はT4の100倍です。活動性の強いバセドウ病では、T3が優位に血中に上昇しております。したがって、メルカゾールを増量して、甲状腺機能を正常に目指していっても、T3は十分には低下しません。メルカゾールをさらに増量して、fT3が正常になるまで押してゆきますと、fT4が0.5ng/dlとか、0.6ng/dlとかすごく低い値になってしまいます(fT4の正常値は0.8-1.3 ng/dlぐらいです)。このような状態でT4製剤であるチラーヂンSを入れると、甲状腺機能がちょうど正常に落ち着くことを経験します。
このように、メルカゾールを必要な分だけ入れ続けると、バセドウ病のマーカーである甲状腺受容体抗体が徐々に下がってきます。甲状腺受容体抗体が下がったほうが、バセドウ病がよりコントロールされている状態であり、望ましい状態です。なので、3か月に1回程度甲状腺受容体抗体をチェックし、可能な限りバセドウ病を鎮静化することを目指します。
薬だけでコントロールが難しい場合もあります
このような理由で、メルカゾール単剤ではコントロールが難しいバセドウ病に対して、メルカゾールとチラーヂンSを同時に使う治療が行われます。メルカゾールだけでよくなるバセドウ病は比較的軽症で、ブロック補充を行うバセドウ病は中等症以上であるという言い方もできます。ブロック補充が必要なバセドウ病は手術やアイソトープ治療の適応であることも多いです。必要な患者さんには、適切な医療機関を紹介しております。