バセドウ病と妊娠について
バセドウ病は若い女性によく起こる疾患です。若い女性ということはイコール妊娠可能年齢でもあり、バセドウ病につかうメルカゾール(MMI)やプロパジール(PTU)という薬をどのように使っていくかということが問題になります。現在の甲状腺学会のガイドラインに沿って説明します。
できればMMIを使いたいが、妊娠初期には使えない
バセドウ病の薬物療法の主薬は、MMI(メルカゾール)やPTU(チアマゾール)です。これらの薬は、
皮疹や肝機能障害などの副作用はPTUのほうが、MMIと比べて頻度が高く、また甲状腺ホルモンの分泌・合成を抑える力はMMIが強いので、単純にバセドウ病の治療としては、できればMMIを使いたいところです。しかし、MMIは妊娠初期には胎児奇形の発生率が4.1%であったと報告されており、妊娠初期でどうしても薬を使いたい場合はPTUを使います。
授乳中の場合
授乳中の場合、PTUのほうが母乳への移行が少ないため、6錠まで問題なく使えます。メルカゾールの方が母乳の移行が多いのですが、1日2錠(10mg/日)までなら母乳中の移行は少なく問題なく使えます。3錠以上なら、授乳までの間隔を内服から6時間空けると使うことができます。
妊娠の可能性があるならMMIは使えない
妊娠可能年齢でバセドウ病と診断され治療が必要な場合、妊娠の希望があるかを伺います。妊娠が気づいた時には妊娠2-3か月に達しているため、心臓や神経系ができてゆく器官形成期に達してしまいます。MMIの暴露を減らすため、妊娠希望があれば、また妊娠する可能性があれば、あらかじめ妊娠する前からPTUを選択します。ガイドラインでは、MMIは妊娠5週0日から9週6日まで避けることが推奨されております。
活動性の低いバセドウ病に対しては、ヨウ化カリウムを用いる場合もあります。妊娠10週までの短い期間であればヨウ化カリウム単独でも効果がある場合があり、ヨウ化カリウムは妊婦への危険性は少ないと考えております。
手術やアイソトープ治療も選択肢のひとつ
バセドウ病合併妊娠への、アイソトープ治療は禁忌ですが、甲状腺クリーゼレベルのバセドウ病に手術をすることはあります。かなり重症の患者に対する選択肢の一つとなります。病勢が強い場合、あらかじめ手術をおこなって甲状腺を摘出し、チラーヂンS内服した状態で安全に妊娠を目指すことも行われます。
若いバセドウ病患者様が安心して治療を受けることが出来るように、今後も若い女性のバセドウ病治療に積極的に向き合っていきたいと思います。